「ライフサイエンス・セクターのイノベーションを巡り、日本は世界の競合各国に遅れを取るリスクがある」―エコノミスト・インテリジェンス・ユニット報告書
- Written by Media Outreach
- 2015〜19年に日本で発表されたライフサイエンス系の論文数は17%減少している一方、中国は同期間に80%増を記録している。
- 日本では研究開発人材に占める女性の割合は僅か15%である。また日本の研究者に占める外国人の割合も僅か5.6%(米国では28%)に留まる。
- 日本における研究開発への投資総額(昨年度)は181億ドル(約2兆円)と、米国の1790億ドル(約19兆円)や中国の1000億ドル(約11兆円)を大きく下回る。
『日本のイノベーティブなライフサイエンス・エコシステムを支えるために』は、ファイザー株式会社協賛の下、ザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が作成した報告書で、ライフサイエンス・セクターの研究開発に関する日本・ 米国・韓国・中国の比較分析と、イノベーション力強化のために求められる戦略・方策の検証を行っている。そして本報告書では、2019年12月から2020年1月にかけて日本・米国・韓国・中国の 4 カ国を対象としたスコアカードを作成した。
日本はライフサイエンス・セクターで高度なイノベーション力を維持しているが、先行する米国には追い付けていない。またアジアでは韓国・中国といった競合国の追い上げに直面しており、イノベーション大国としての地位は必ずしも盤石でない。以下に、その詳細を列記する。
- 2015〜19年に日本で発表されたライフサイエンス系の論文数は17%減少している一方、中国は同期間に 80%増を記録している(Nature Index調べ)。医薬品・医療機器の両分野の特許数において、韓国・中国では緩やかな増加傾向がみられる一方で、米国・日本は概ね安定して推移している。米FDAによる新薬承認件数において、日本は韓国や中国などアジアの競合国に対して優位を保っているが、FDAの認可を受けた日本の新薬は、その全てが大企業によって開発されており、米国では新薬の大半が新興バイオテック企業をはじめとする小規模企業 によって開発されているのとは状況が異なる。
- 日本のライフサイエンス・セクターの人材育成・成長が遅れを取る理由には、非常勤研究員を短期雇用する大学機関の増加や、研究者に占める女性(15%)や外国人(5.6%)が僅か(米国の研究者に占める外国人は28%)であること、などが挙げられる。
- 日本は研究開発への投資という側面でも遅れを取り始めている。日本における研究開発への投資総額(昨年度)は181億ドル(約2兆円)と、米国の1790億ドル(約19兆円)や中国の1000億ドル(約11兆円)を大きく下回っている。
以上のことから、日本がこれまでの実績を活かしながらライフサイエンス・セクターにおいてイノベーションの競争力を強化させるために注力すべき取り組みが明らかとなった。高度な研究人材の維持・拡充(研究開発分野における女性人材の活用拡大、海外からの人材獲得の支援、既存人材の再教育)、研究開発投資の加速と企業向けインセンティブの強化、効果的な知的財産保護制度の維持、技術移転・実用化、医療財政の健全化と新薬創出、などがそれらの分野に挙げられる。
本報告書の編集責任者ジェシー・クイグリー・ジョーンズは次のように述べている。「日本は伝統的にライフサイエンス・セクターで強みを持っており、イノベーションのさらなる推進に向けた条件が整っています。しかし、その進歩や改革が停滞し始めている可能性があり、他国同様、日本も様々な領域に改善の余地が見られます。日本が今後、世界的な競争力を保ち、ライフサイエンス・セクターのリーダーシップを取っていくためには、基礎研究への再投資、技術移転・実用化の更なる推進、ライフサイエンスに従事する人材強化などに取り組むことが重要です。」